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書評

福丸由佳 編『離婚を経験する親子を支える心理教育プログラムFAIT―ファイト―』(評:汐見稔幸)

福丸由佳 編『離婚を経験する親子を支える心理教育プログラムFAIT―ファイト―』

 

 結婚するのは簡単だけど、離婚するのはとても難しいよ。


 身内に離婚で苦労した体験をもつ者がいることもあり、おりにふれてそう言ってきました。日本の結婚・離婚の実態からみて、一般的にもそうなるだろうなと強く思うからです。


 知人にスウェーデン人と結婚しいまもスウェーデンでくらしている日本人女性がいます。彼女がスウェーデンの大学を出て20年後、大学の同窓会に出席すると、最初に結婚した人といまもパートナー関係を続けているのは彼女一人で驚いたと話してくれたことがありました。


 スウェーデンでは離婚−再婚はある意味日常のことで、離婚は日本ほど大変なことではなさそうなのです。実際は子どもの養育をどうするのかなどの問題があり、そうスイスイと離婚−再婚しているわけではないと思いますが、それでもこのエピソードには驚きです。


 世界的にみると離婚−再婚の形はじつに多様です。私の娘は高校生のときイギリスに短期留学してある家庭にホームステイをしていました。その家庭は、女性が前夫と離婚して別の男性と一緒に暮らしていたのですが、驚いたのは、その家に離婚したはずの前夫が一緒に暮らしていたことでした。娘はどうなっているのかわからないといっていましたが、その前夫はその家でどう見てもいじいじして暮らしていたとのこと。出て行くあてがなかったのかもしれませんが、夫婦、家族の形は私たちの想像以上に多様になっていることを示唆する例でしょう。


 日本はどうなのか。まもなく人生100年という時代を迎えるわけですから、若いころに「この人!」と選択しても、冷静にみればその後ずっとよい関係を作り続けるのは、難しくなることも考えられます。価値観の多様化も進み、夫婦で共有できる価値観を維持していくことは以前よりも難しくなるでしょうし、女性の社会参加がもっと進むと、連れ合いと異なる人と出会う可能性も高くなるからです。日本でも夫婦、家族の形が多様化していくのでしょうか。


 少なくとも離婚ということについては今よりももっと多くの人に起こりうる、より一般的な出来事になるでしょう。その際に生じる困難は可能な限り社会の知恵で縮減していく、そういうことを考えるべき時代に来ています。


 本書の編者である福丸由佳さんは、夫婦・家族に起こりうる問題に敏感なアンテナを立て、可能な限り生じた問題をポジティヴな生き方にむけて活かしていく方策を探り、その視点から多くの人たちのサポートをしてこられました。その福丸さんが中心になって、「離婚は家族にあり得る出来事で、それをその家族の移行期と捉える」という視点から、家族が形を変えていくことにていねいに寄り添っていく支援のあり方を提唱しているのが本書です。それだけでも新たな視点をえられると思うのですが、さらに豊富な事例で、一般論に終わらせない、ていねいで臨機応変な支援を紹介しています。


 日本には、家族政策(ファミリーポリシー)が十分ではないという歴史的課題があります。本書は、今後の日本の家族政策の策定に大事な視点を提供するものと期待しています。こども家庭庁発足と同時期の出版という点でも大事な本になるでしょう。

 

東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長
汐見稔幸

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