二宮祐子 著『保育実践へのナラティヴ・アプローチ』(評:横山草介)
二宮祐子 著『保育実践へのナラティヴ・アプローチ――保育者の専門性を見いだす4つの方法』
「教育実践へのナラティヴ・アプローチ」とか「学びへのナラティヴ・アプローチ」といったタイトルの本が書店に並んでいたらいいなあと思っていたら『保育実践へのナラティヴ・アプローチ』。著者の学位論文を土台とした読み応えのある労作である。
「ナラティヴ」という概念は今日、非常に広い意味で使われるため、方法論上の焦点を定める作業にはおそらくかなりの苦労をともなう。ともすれば、拡散的な議論に終始し「なんでもあり」の雲をつかむような議論になってしまう。その点、この著作はナラティヴ論の古典に立ち戻って議論のルーツをひとつひとつ確認しながら論を進めているので、そのことが議論の拡散への抑止力としてうまく機能している。
個人的な関心ゆえに気にかかったことは、ナラティヴ・アプローチを冠するにはやや「言語学的な概念分析」や「数量的アプローチに依拠した妥当性の担保」といった印象が強いということ。言葉を換えて言えば「質的なデータ」に基づいた議論の妥当性を「言語学的な概念分析」や「量的な方法論」に依拠して担保している志向が強いこと。
Mixed Methods Research、いわゆる「混合研究法」への志向は興味深いのだけれども、意味生成と文脈の機能を含む「質的データ」に固有の強みや面白みをもう少し読んでみたかったし、ナラティヴ・アプローチに固有の「方法論」へのこだわりといった部分をもう少し感じたかった。原題が『ナラティヴ・アプローチの方法論に関する実証的研究』ということなので。
もちろんこの背後には、冒頭の困難を乗り越えての方法論上の選択ということが関わっているので、これはあくまで個人的な関心である。
編集部注:本稿は横山草介氏が2022年9月7日にSNSで発表したものを、ご本人の許諾を得て転載した。