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一斉休校の陰で苦しむ子どもたち

学校という居場所を失うことで、感染のリスクよりももっと高い危険にさらされてしまう子どもたちがいる。

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感染力の高いデルタ変異株の台頭により、各地域で再び、一斉休校、学校閉鎖の可能性が検討されている。

2020年春から蓄積されてきたパブリックヘルスの研究は、大まかな傾向として、学校で新型コロナウイルスの感染予防措置が取られていれば、感染拡大を促進したり、教師や生徒を危険にさらしたりすることなく、学校を安全に再開できることを示していた。学校での感染に関する研究の多くは、子どもたちがウイルスの蔓延を促進していないことを示唆した[i]

それがデルタ変異株により、今、問い直されている。米国疾病予防管理センター(CDC)が先週リリースした非常に詳細な報告書によると、デルタ変異株に感染した小学校教師が、教室の生徒の半数にウイルスを拡散させ、最終的に合計26人感染の集団発生を引き起こした。教師はワクチン未接種で、症状発症後に2日間授業を続け、マスクを外して生徒たちに読み聞かせをしていた[ii]

まだまだ分からないことが多く、油断のならないこのウイルス。状況は常に変わり、それに応じて然るべき感染対策が必要だ。その一方で、この1年半で明らかになったこともある。

日本では、昨年の春の全国的な休校に伴い、各地の医療機関や支援団体の窓口に、特に10代、20代の若い女性からの妊娠相談が急増した。性暴力被害について相談できる全国の支援センターに寄せられた相談件数も同様に増えた。厚生労働省によると、全国の児童相談所が2020年度に対応した虐待相談件数は前年度より6%増え、20万件を超えた。集計を始めた1990年度以降、30年連続で最多を更新したという[iii]。家庭に安全な居場所がない子どもたちがいる。特に学校を失うことで、窮地に立つ子どもたちがいる。

学校という居場所を失うことで、感染のリスクよりももっと高い危険にさらされてしまう子どもたちがいるということを、今こそ念頭に置きたい。そしてその子どもたちを守るために、私たちは何ができるのだろうか。

2020年3月から、世界中の国々の90%以上が、新型コロナウイルスの感染を抑制するために、学校を閉鎖した。閉鎖期間は様々であったが、その結果、10億人以上の生徒たちが、過去1年半の間に学校閉鎖の影響を受けたことになる[iv][v]。このような前代未聞の事態によって、私たちは、学校が子どもたちにとって、どのような意味を持つのか、再確認することになった。

私は現在、国際保健・開発分野の個人コンサルタントとして働いている。この半年間携わっている案件では、東アフリカ地域で、新型コロナウイルスにより女子の教育がどのような影響を受けたかについて調査している。ケニヤ、タンザニア、ウガンダで教育やジェンダーに精力的に携わる現地の複数の草の根団体や研究機関にインタビューを行い、これらの組織とリモート・ワークショップを開催した。

およそ30くらいのインタビューで繰り返し耳にしたのが、「新型コロナウイルスによって、新たな問題が生じたのではなく、既存の問題が著しく悪化したのだ。」ということだった。

ケニヤは9か月間学校が閉鎖され、ウガンダでは現在まで1年以上学校閉鎖が続いている。タンザニアの学校閉鎖は4か月未満だったが、これは当時の大統領が新型コロナウイルスの存在を否定したからだった(今年の3月に彼は心疾患のため死去。新型コロナウイルス感染が原因だったとする報道もされている)。国の公的な教育制度が行き渡っていないため、多くの(特に貧しい)生徒たちは私的資金によって運営されているコミュニティ・スクールに通うのだが、これらの学校の多くは長期にわたる学校閉鎖により経営破綻に陥り、崩壊した。教師の離職率は高く、安定した職ではないことに気づいた教師たちは別の職種に就いた。生徒たちは学習に後れをとり、意欲も低下した。リモート学習するための環境が整っている生徒たちは、東アフリカではごく限られている。家事を任されたり、外に仕事へ出された子どもも多かった。学校に石鹸や消毒液なども無い場合、感染予防対策を取ることは難しい。もともと高かった若年層の妊娠率は、家庭の受けた経済的打撃や暴力の増加に伴って、さらに高まった。親の留守を見計らって侵入する親類や近所の者による性暴力や、近親相姦も問題になっている。

「私たちは、以前、子どもたちは家にいる方が、学校にいるよりも守られていて、安全であると信じていました。それが新型コロナウィルスによって、覆されたのです。」(ウガンダのジェンダー問題に携わるNGO)

東アフリカ特有の問題、すなわち極端な貧富の格差、極度の貧困、高い女子の妊娠率、それらによる義務教育の中断などもあるものの、実は多くの提示された問題は世界各国で程度の差があれど共通するものであった。家庭が受けた経済的打撃はもちろん、資源のない家庭ほどリモート教育の恩恵を受けられない構造や広がる教育格差、ヤングケアラーとして自分の教育を犠牲にしなくてはならない子どもたち、特に女子たち。居心地が悪く、安らぎを感じられない、もしくは暴力にさらされてしまう家庭環境。不透明な状況に対して長期間対応し続け、生徒と自分自身と自分の家族を守るために疾走し続け、疲労困憊した教師たち。希望を失う子どもたち。むしろ、より豊かな国では簡単に覆い隠されてしまうようなことが、豊かでない国では顕著に表れ、そのことでどの社会にも潜んでいるものに目が行く場合もある。げんに、東アフリカの教育者たちの言葉に、しばし私ははっとさせられた。

「学校閉鎖が1週間、またもう1週間と延長されるたびに、それは確実に影響を与えました。生徒たちに、特に女子たちに、それは有害でした。」(タンザニアの教育NGO)

パンデミックにより、全員が影響を受けたが、その被害は平等ではなかった。

東アフリカで起こっていることと日本は関係ないと思われるかもしれない。決してそんなことはないという点を強調したい。日本の女性の自殺者数の急増が大きなニュースになったが、内訳として、女子高校生の増加が指摘された[vi]。若い女性たちが苦しんでいる。国が設置した相談窓口や全国の相談支援センターに寄せられた20年度相談件数の合計も、家庭内暴力、性犯罪や性暴力、ともに前年度から増加した。内閣府のデータによると、女性非正規労働者は20年3月以降、1年以上連続で減少している。シングルマザーの完全失業率は、配偶者のいる母親と比べて約10倍悪化したという [vii]。学校閉鎖はひとり親家庭にとってどのような意味を持つのだろうか? 配偶者に暴力を振るわれる親を持つ子どもたちは、家でどのような思いで過ごしているのだろうか?家庭が安全でない場合、子どもたちはどこへ行けるのだろうか?

東アフリカの教育者たちから学んだ、パンデミック下で、優先すべき課題について以下にまとめる。これは東アフリカだけではなく、子どもたちの健康な成長に責任のある私たち全員にとって参考になると信じている。そして日本は東アフリカ地域に比較してずっと豊かな国であり、これらを行動に移すことができるだけの資源が必ずあるはずだとも信じたい。そして行動に移さない場合のコストの大きさにも気づきたい。

1)学校・家庭・コミュニティの連携強化

  • 脆弱な子どもたち(貧困家庭・ひとり親家庭・特別支援学級の生徒たち・障害を持つ生徒たち・暴力被害にあった、もしくはその可能性のある子どもたち)の識別と支援体制を整える。
  • 生徒たちが学校で給食を取れない場合、別の形で栄養のあるお弁当もしくは食料を配布する。
  • 休校中、学校は生徒と何らかの形で連絡を取り、孤立させない。
  • 感染者が学校関係者もしくはその家族で確認された場合の情報共有など、感染拡大を最小限に抑えるための体制を作る。

2)教師と学校への投資とサポート

  • 完全な休校ではなく、分散登校、短縮授業などの部分的開校の検討をする。
  • 安全に開校できるための感染予防対策への設備投資をする。
  • 教育者たちの自己メンテナンス・休養を確保し、リモート授業やライフスキルに関する訓練・能力強化を行う。教育者たちへのワクチン接種を優先する。
  • 一クラス当たりの人数の削減と、教師の増員をする。(これは授業の質向上と各教員の負担減にもつながる。)

3)心のケア

  • 子どもたちの心のケアを行う。子どもたちは学習意欲の低下、(暴力被害や親の失職、家族の病気などによる)トラウマ、希望の喪失を経験している。
  • 教師たち、親たちの心のケアも欠かせない。そしてそれは子どものメンタルヘルスに直結している。

4)生きる力の育成

  • 読み書きや計算などの従来の学習に加えて、生きる力の育成(ライフスキル)を重視する。どのように目の前の問題を解決するか、自分で何を決断するか、困難にどのように立ち向かうか、どのように自分を守るか、信頼する関係を築き、自ら助けを求められるか?このような危機こそ、子どもたちにその力は必要不可欠だ。

 

赤地葉子

[i] Willyard C. COVID and schools: the evidence for reopening safely. Nature. 2021 Jul;595(7866):164-167. doi: 10.1038/d41586-021-01826-x. PMID: 34234340. https://www.nature.com/articles/d41586-021-01826-x#ref-CR1 

[ii] Lam-Hine T, McCurdy SA, Santora L, et al. Outbreak Associated with SARS-CoV-2 B.1.617.2 (Delta) Variant in an Elementary School — Marin County, California, May–June 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 27 August 2021. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7035e2 

[iii] 時事通信社 2021年08月27日10時06分  20年度児童虐待、初の20万件超 コロナとの関連注視―厚労省 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021082700450&g=soc

[iv] Insights for Education. 2021. One Year of School Disruption. https://education.org/facts-and-insights

[v] UNESCO. 2021. COVID-19 Impact on Education. https://en.unesco.org/themes/education-emergencies/coronavirus-school-closures 

[vi] 内閣府男女共同参画局 令和3年版男女共同参画白書https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202107/202107_03.html

[vii] 時事通信社 2021年06月11日08時51分 コロナ禍「女性不況」に 雇用悪化が影響―男女参画白書 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021061100334&g=pol

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著者略歴

  1. 赤地 葉子

    1977年広島県生まれ。ハーバード大学パブリックヘルス大学院博士(国際保健)。東京大学学士(薬学)。世界保健機関(WHO)、グローバルファンド(The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)、他の大学・国連研究所やNGOに勤務し、途上国における母子保健の推進、家族計画、マラリア対策、保健システムの強化等に政策、研究、現地調査を通して取り組む。2017年よりヘルスケア関連の個人コンサルタントとして独立し、フィンランドでデンマーク人の夫と二人の子どもと暮らす。著書に『北欧から「生きやすい社会」を考える』(新曜社)。

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